古民家はなぜ人の心を打つのか

古民家はなぜ人の心を打つのか

古民家はなぜ人の心を打つのか

 

技術から解く民家のかたち

眺めているだけで、心安らぐ古民家。しかし、それはなぜなのでしょう。
古材の力、古びた美……抽象的に語られがちなその魅力を、技術面から解説します。
建築構法に造詣の深い、建築家の三浦清史さんにうかがいました。

談・三浦清史

 

黒光りする太い曲がり梁や柱、煤竹などを見るとなぜ、私たちは心安らぐのでしょう。民家が魅力的なのは、人智を超えた時間がデザインをしているからです。それは、私たちが今、目にしているような新しいデザインといったい何が違うのか。

住まいや公共建築など私たちを取り巻く現代の建築デザインは、1920年代に欧米で生まれた近代主義のデザイン(モダニズム)に端を発します。しかもそれは、自然の造形に倣った曲線を建築に取り入れたアール・ヌーヴォーではなく、装飾を廃した直線的な造形に基づくものでした。そして、機能性・合理性をかかげ、従来のデザインを駆逐するかのように世界的に広がりました。絶対的な合理性から、伝統を断ち切るデザインは、一神教であるキリスト教的な世界観を反映していると言えるでしょう。

対して日本の近世までのデザインは、ダーウィンの生エコロジー態学の如く、ゆっくりと進化するなかで伝え継がれるような性格のものでした。今、建築家が新しく民家をつくろうとしても、そこにはどうしても、モダニズム的な世界観や「建築家の個性」という異分子が出て、古民家とは受ける印象がずいぶんと異なります。この差は何か。技術的な見地からひもとくために、〝学者棟梁〟の二つ名をもつ昭和の名棟梁・田中文男さん(※)の、日本建築には「堂の技術」と「小屋の技能」という二つの流れがあるという論を紹介しましょう。

(「チルチンびと」80号抜粋 ※全文は電子書籍でご覧ください。)

 

たなか・ふみお
1932 年茨城県生まれ。14 歳で宮大工の棟 梁に弟子入りし、年季があけ御礼奉公を終え上京、根津神社の修復工 事に携わる。早稲田大学工業高等学校建築科で建築を学ぶ。民家調査、 重要文化財の修復工事を多数手掛けるほか、宮脇檀設計の「銀座帝人 メンズショップ」「もうびぃでぃっく」の施工や、板倉構法・民家型構 法の開発も行った。2010 年逝去。

 

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