発刊に寄せて
「民家の再生」という言葉は、建築ジャーナリストの平良敬一さんと、立松久昌さん(故人)の造語である。長野県在住の建築家・降幡廣信の仕事を評して生み出され、1992年に『民家の再生』| 降幡廣信の仕事| が刊行された。来日観光客の増加で、京都・金沢をはじめ全国の「伝統的建造物群保存地区」は大盛況である。
一方で、民家の再生のための「大工・左官・建具」の技術継承は困難な状況にある。戦後の住宅建築は、プレファブリケーションと産業化により「地域ごとの伝統的建築」から、「商品」へと大きく変わってきた。工務店も社員大工・常用大工を抱えていても、その技術を発揮し継承するための「受注」が長期的に減少し、構造材の機械プレカットと構造用合板により、大工の仕事が組立工化している。
和室・床の間・玄関上がり框・障子・簾戸・欄間、瓦屋根・格子戸・土壁・犬矢来……世界の人びとに「感動」を与える力を持つ「建築文化」。それを生み出す「職人力」の継承のための「大工・左官・建具」職人の高齢化問題が指摘されて久しい。
建築家の故・吉田桂二さんは大工後継者問題について、大工が「人に見せられて、家族に自慢ができ、人より稼げる」ように戻せば、ほっといてもみんななる。それは「工務店の社長の、腹のくくり方次第だ」。加えるなら「建築家とメディア」の協力だと、よく話していた。 平良敬一さんも、建築家は「大工・左官・建具」職人の仕事を組み込み「機能主義を超えた」住宅建築を、めざさなくてはならない。それは、グローバルとローカルの「相克」の中で「創造」されると、語る。
そのための「場」として『チルチンびと「古民家」の会』を立ち上げた。この小雑誌が、いくばくかの役に立てれば望外の幸甚である(あの世に逝った後の、先達への言い訳のためもあるのだが)。
『チルチンびと』 編集長 山下武秀
■チルチンびと「古民家」の会 会員工務店事例
古民家再生の実績を生かし新潟の料亭を移築再生 愛知県 勇建工業
築130年の古民家をモダンに住み継ぐ 愛知県 勇建工業 再生設計=岡本一真
家とともに受け継がれる先人の粋 愛知県 小林住建
家族の絆を深める大正期の主屋再生 福岡県 建築工房 悠山想
伝統工法を次世代に継ぐモデルハウス兼ギャラリー 奈良県 倭人の家建築 設計=安田勝美
築100年の住まいを再生し老後を豊かに過ごせる家に 愛知県 エコ建築考房
伝統工法を知り尽くした棟梁が挑む大正期古民家の補強再生 神奈川県 加賀妻工務店
町家を再生したホテルで宿場町を丸ごと体感 滋賀県 木の家専門店 谷口工務店 設計=竹原義二(無有建築工房)