雑誌「チルチンびと」88号掲載「東京都/T邸」
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22 それまでは友人づくりにも消極的だった瀧内さんだが、ここに住みはじめたことがきっかけで子どもが同じ保育園に通っている唐澤美和さん、荷に福ふく千明さんと出会い、暮らしががらりと変わった。瀧内さんは二人の料理の上手さに驚き、思わず「教えて!」と声をあげたという。「3人とも食べることが大好きで、価値観がぴったり合ったんです」。 それからは家族ぐるみで「ごはん会」と称して食事を楽しんでいたが、やがて瀧内さん宅の食堂を開放し、本格的に料理のワークショップを始めるように。月に2回のワークショップには、近所の同世代の母親たちを始め、さまざまな人が参加する。「ここに来るのは、自分のための時間を過ごせるから。ふだんは子育てで忙しく、おいしいものをつくって食べるという余裕がなくて。ここに来ればみんなで楽しく食事をすることができる。清々しい気持ちで帰れるんです」と、参加者は話す。瀧内さんは「子どものためではなく、自分たちの楽しみのための会でもあるんですよね。そこに子どもたちが巻き込まれていい刺激にもなっているという感じで」と語る。 みんなで料理をしている間に飛び交うのは、ふだんの料理のレシピはもちろん、近所の保育園や病院、スーパーの情報など、インターネットで的確に探し出すのは難しい情報ばかり。これぞ現代の井戸端会議だ。子どもたちも保育園とは違い、年齢もばらばらなので、年上の子が年下の子の面倒を自然と見ている。「自分が孤独で寂しい時間を過ごしていたから、こういうことをしているのかもしれません。やっぱりつながりができたことは、とても嬉しかったんです」と、瀧内さん。「上野桜木あたり」には店舗があるので、近所の人以外に国内外の観光客も多く訪れる。戦前から残る古い建物我が家の食堂で繰り広げられる、井戸端会議初めての人が来ても、料理や食事を一緒にすればすぐに打ち解ける。瀧内さん宅の食堂で、料理のワークショップ。「餃子包めたよ」。大人に教えてもらいながら楽しそうに手伝う子どもたち。

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