雑誌「チルチンびと」80号掲載「岩手県/T邸」
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106建具の意匠や素材にも当時の職人のこだわりが感じられる。「古い家を改修することは、現代の職人が昔の職人と対話することでもあるんです」と桜田さん。右上:家の中にかかる橋に往時が偲ばれる。左上:風情漂う階段室まわり。 右下:駐車スペースを確保するため、道路からやや奥まった位置に新設した玄関。旅館の面影が残る廊下の両側には多くの部屋が並ぶ。書庫、裁縫室など部屋ごとにテーマを検討中。お子さんが生まれても子ども部屋に困ることはない。で参加するという。 この建物は明治30年代に遊郭として建てられ、長い間旅館として、その後は地下でカフェを営んでいた前オーナー夫妻の住居として使われてきた歴史がある。家の中に橋がかかり、部屋ごとに建具や仕上げが異なるなど、当時の職人の技と心意気が随所に感じられる。 「傷みもひどく建て替える選択肢もありましたが、こんな面白い建物を壊すのもったいないと、妻とも意見が一致しました」とご主人。 改修を依頼したのは住工房森の音㈲美建工業。タウン誌で見かけた同社の古民家再生住宅見学会に足を運び、手刻みのこだわりやセンスの良さ、桜田文昭社長の古い建物を残すことに対する情熱に共感したという。 「古い建物を安易に取り壊す風潮には疑問を感じます」と桜田さん。改修は、攻め(新たな空間をつくること)だけでなく守り(傷んだ部分を直すこと)が重要とのことで、今回は断熱と耐震に配慮しながら家全体の守りを固め、攻めは主たる生活空間に限定している。 「廊下からリビングに入ると別世界ですね」と奥さんが笑う。夫妻はまだこの大きな建物に暮らし始めたばかりだが、地域に開いた使い方を模索中という。盛岡の歴史ある町人文化の証人として、この建物が残された意義は大きい。守りが改修の要

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