雑誌「チルチンびと」72号掲載「和箪笥のある愉しみ」
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7777前に彫られているものは松竹梅や鶴亀、宝づくしなど、ほとんどが縁起物。そこに親から子への思いが込められています。そんなことに思いを巡らせながら箪笥を選ぶのも愉しいのではないでしょうか。風土による個性 箪笥には地域ごとに豊かな個性があり、錠前や素材、寸法から産地がわかります。豪華な金具がついた箪笥は寒い地方によく見られます。冬の間、積雪のため外での仕事ができない職人が、凝った装飾の錠前などをつくっていたのです。また、寒い地域では欅・栗・杉などを素材にしていました。ゆっくり生長し、年輪が詰まったいい材木がとれるので78頁の鍵付帳場箪笥の玉たまもく杢のように美しく珍しい材が使われていることもあります。 対照的に暖かい関東以西では、檜・桐などが使われます。金具も、 74頁左下の水屋箪笥のようにあっさりしています。 大きさにも地域によって差があります。家や箪笥の寸法は畳の寸法体系を基準として決まっていますが、関東以北では「江①前桐材鍵付二重ね時代箪笥②幅106×奥行き44×高さ95(㎝)③198,000円④明治中期~後期/最上(山形)⑤前面は桐、側面は杉材。桐はやわらかく傷つきやすいが、これは表面の保存状態がよくきれいに残っている。扇がモチーフの錠前は稀少。①鍵付時代箪笥②幅54×奥行き42×高さ91(㎝)③125,000円④明治中期~後期/最上(山形)⑤大きな箪笥の横に置かれ、和装小物を収納していた脇箪笥。この2尺のサイズは数少ない。小さいながら、幅90㎝ぐらいの箪笥につけるような金具が大胆にあしらってあり、存在感がある。狭い部屋でも和箪笥を愉しみたい方におすすめ。①漆塗時代箪笥②幅99×奥行き38×高さ103(㎝)③49,800円④昭和初期/京都⑤京都定番の五段の箪笥。京都で衣装箪笥が発達したのは大正以降。総じてこの時代の箪笥はデザインがあっさりしている。赤漆塗りで鍵穴は桐の葉がモチーフ。①前桐材二重ね時代帯箪笥②幅90×奥行き37×高さ129(㎝)③45,000円 ④大正期/北関東⑤上下二重ねの帯専用の箪笥。おそらく呉服屋などの商売人のあつらえもの。帯専用なので奥行きは浅く、段の数が多い。前面を桐、側面を杉でつくるのが大正期の特徴。総桐の箪笥がつくられるようになったのは昭和に入ってから。①前欅材鍵付二重ね時代箪笥②幅120×奥行き45×高さ97(㎝)③238,000円 ④明治中期/仙台(宮城)⑤二重ねの仙台箪笥。この地方は唐草をモチーフにした横長の金具が多く見受けられるが、これはなぜか福島・相馬の金具だった。錠前は菊がモチーフ。いちばん上の段は、女性が細かいものをしまうために引き出しが二分割されており、姫箪笥と呼ばれる。

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