雑誌「チルチンびと」72号掲載「和箪笥のある愉しみ」
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76衣装箪笥必要がなかったので、着物や布団は畳んで部屋の隅に置き、食器も水場に置いたままでした。 江戸中期頃から庶民の経済水準が上がり、ものを持つようになると、つづらに衣類などを収納するようになりました。これが箪笥の起源です。それが大きくなり、木製の長持に変化。さらに運びやすいように車輪をつけ、車箪笥が誕生しました。 その頃の車箪笥は杉材でつくられていて、大きさは畳1畳分ほどで、重いものでした。江戸の大火の時に、逃げる人びとの車箪笥で道が塞がり、さらにそこに飛び火して大惨事になったという話も伝わっています。 これを踏まえ、材料の一部に軽い桐が使われはじめます。運びやすくするため形もコンパクトにして、箪笥の横に棒金具を付けました。これが重ねの箪笥や衣装箪笥です。ちなみにこの棒金具に竿を通して担いで運んだことから箪笥を1棹、2棹と数えるようになったのです。 そして、桐箪笥といえば嫁入り道具。女の子が生まれたら桐を庭先に植え、嫁ぐときにその生長した桐で箪笥をつくり、道具一式を入れて持たせます。錠①前欅材鍵付時代箪笥②幅115×奥行き45×高さ60(㎝)③95,000円④明治中期~後期/二本松(福島)⑤錠前金具には鶴と亀、その下に八重菊がモチーフの「福輪」と呼ばれる金具。福輪が二つ付いているのは高級なしるし。真鍮の亀をずらすと鍵穴が現れる。座金とあたり金具で松竹梅を模し、縁起物が集約されている。(P.73写真参照)①黒漆塗鍵付時代箪笥②幅90×奥行き42×高さ106(㎝)③185,000円④明治中期~後期/庄内(山形)⑤総桐の黒漆塗りのからくり箪笥。扉を開け引き出しを出すと、その奥にさらに隠し箱がある(写真上)。庄内地方は漆仕上げが多いが、この真っ黒ではない漆と焼き付けの金具の色合いが絶妙。①杉材時代箪笥②幅85×奥行き40×高さ109(㎝)③65,000円④大正期/信州松本(長野)⑤重ねの箪笥が少ない信州松本の定番の1本物。黒縁と、引き出し前板の赤みのある仕上げとで、色のコントラストを楽しんでいる。商売繁昌を願う、巾着モチーフの錠前に木瓜引手。①鍵付二重ね時代箪笥②幅103×奥行き45×高さ96(㎝)③198,000円④明治初期~中期/米沢(山形)⑤錠前には桜、唐草、八重菊の彫りをあしらってある。三つ葉がモチーフの木瓜引手に、縁起物の三階松の座金。上下をばらし、横並びでも使える。この箪笥のように、米沢の衣装箪笥は背の低いものが多い。76車箪笥から進化した衣装箪笥。当時は家ではなく家具に鍵をつけていたので貴重品を入れるところには錠前がついています。その錠前をはじめとする、金具・木目・仕上げの色の組み合わせを楽しんだ職人の遊び心が随所に見られます。寝室などで本来の用途として使うのはもちろん、玄関やリビングにアクセントとして置くのもおすすめです。

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