雑誌「チルチンびと」86号掲載 山形県・佐藤邸
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31この芋をどうにかして売ろうと、全身全霊で取り組む充実感は何にもかえがたいものがありました。今までがむしゃらにやってきたことが、やっとつながってきた感じがします」。 春樹さんは結婚後、この築150年ほどの古民家を手に入れた。「前から、古民家に住もうと決めていたんです」。町育ちだった奥さんの衣利子さん曰く「本当に住めるのか、という状態」だったが、古民家の味わいを最大限引き出そうと、友人の建築家・井上貴詞さんにアドバイスを受け改修。部屋を土間に戻し、天井を外し梁を現しにするなど、長い年月の時計の針を戻すような作業だったという。冬は2メートル以上の積雪がある厳しい寒さ故、暖房器具としての薪ストーブは必須。幼い頃から祖父の家で薪ストーブの火に親しんでいたので、焚き方は体が覚えていた。「こんな味わいある家を求めていた、幸せです。そのうち土間にかまどをつけて、皆でごはんを炊いて食べたいんですよ」と春樹さん。 その自宅は、農家民宿として春と夏に開放している。遠くから訪れる人たちに、ゆっくり過ごしてもらうことで、この真室川地域の良さを知って欲しいという思いがあるのだ。 芋を美味しく食べてもらおうと、始めて5年目になる「芋祭」は奮闘の甲斐あり、今や県外からもたくさんの人が訪れるようになった。当日は芋掘り体験をしたり、芋煮をはじめ、さまざまな郷土料理や天然の鮎をふるまう。 伝承野菜に、生の火……一見特別なようでいて、どれも昔から身近にあったのだ。「穫れた作物を火で調理してみんなで食べる、そんな当たり前だけど失われつつある暮らしを、真室川の風景とともに残したいんです」。春樹さんと春樹さんの師匠がつくった藁細工の虫かごと動物のかたちのオーナメント。森の家ではワークショップも開催している。左:真室川に伝わる「まどのこ」というのこぎりの刃。 右:玄関前。前の住人が残していったものをそのまましつらえている。伝承野菜農家 森の家〒999-5521山形県最上郡真室川町大沢2052-10233-63-2651http://www.morinoie.com/【改修設計】井上貴詞建築設計事務所/井上貴詞〒990-0041山形県山形市緑町4-3-5 2F023-665-4865http://takashiinoue.com/

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