雑誌「チルチンびと」74号掲載「京都府/石井邸」
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 薪がはぜる音とともに、自在鉤に吊るされた鉄瓶が火に呑み込まれる。囲炉裏から立ち昇る煙は小屋裏へと届き、茅葺きの屋根を燻す。防虫や防腐の効能により、茅を長持ちさせる煙。古来より人は、火の力を借りて家屋を保ってきた。しかし火は、人の営みを支える一方、時には牙を剥きすべてを焼き尽くす。古代の人は恩恵と同時におそれも抱いていたと、この家の主は言う。 京都府の中部、丹波。京都市内から車を走らせること1時間、晩秋に訪れた山間の土地は、ソバの白い花が一面に咲き乱れていた。木立の間に見え隠れする茅葺き民家が、「独どっか華陶とう邑ゆう」を主宰する、陶芸家の石井直人さんの工房兼自邸だ。修業で各地を転々とした後、この丹波に居を構えたのは、およそ20年前のことである。「ここに、登り窯を建てたかったんです」 斜面などの地形を利用し、燃焼ガスが対流することで窯内を高温に保つ登り窯。20世紀以降は電気窯やガス窯など工業技術を利用した窯もあるが、石井さんは地形の力を借り、火で土を焼くという原初の在り方に強く惹かれた。「古いものの魅力は、極限まで手仕事が突き詰められていること。つく茅葺き屋根から昇る煙は、人の営みを物語る26

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